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「生物はなぜ死ぬのか」

小林武彦「生物はなぜ死ぬのか」講談社現代新書

生物はなぜ死ぬのか

 毎朝、NHKの「おはよう日本」を見ている。ある朝、「すべての生物は、”死ぬため”に生まれてくる。私たちは次の世代のために死ななければならない」みたいなことを、にこにこしながらしゃべっている人が登場した。あまりに素敵な笑顔ですごいことを言っていたので、紹介されていたこの人の本を是非読みたいと思った。

 ”死ぬ”ことにとても恐怖を覚える人が多いらしいけれど、私は子どものころからずっと、それがよくわからなかった。人はいつか死ぬ。それは当たり前のことだし、その運命には絶対に逆らえない。だから、誰かが死んでしまったことをなぜそんなにも嘆き悲しまなければいけないのかよくわからなかったし、どうせ誰もがいつかは死ぬんだから、それに対してそんなにおびえることはないのではないかと思っていた。そんなふうに死をとらえていたので、親が死んでも悲しくないんじゃないかとずっと思っていた。実際に親が死んだときは、もちろん悲しかったし、それなりに泣いたりもしたけれど、やっぱり喪失感で何も手につかなくなるとか、悲しみに暮れるとか、そういうのはあんまりなかった。どちらかというと、死を嘆き悲しむあまり何も手につかなくなる状態に恐怖を感じていて、あらかじめ死をシミュレーションし続けることでショックを和らげようとしているのかもしれないと思う。それなりに年齢を重ねた今では、もうすぐ死ぬのか、いつ死んでもおかしくないなと思うことはあるけれど、”死”そのものが怖いというよりは、家の中がぐちゃぐちゃに散らかってるとか、見られたら恥ずかしいもろもろを死後に他人に見られることがめちゃくちゃ怖い。

 そんなわけで、にこにこしながら老化や死を肯定的に語る小林武彦先生に、「やっぱりそうだよね!」と共感を覚えて、本を注文した。

 

 とても面白かった。もともと高校時代から生物は大好きで、せっかく一生懸命生物を勉強したんだから生かしたいと思って国立大学をあきらめなかったくらいだ。その生物愛は全く報われなかったのだけれど。

 天文学や物理学から生物学へと続く科学史の系譜に始まり、生物学の視点から、生物がどのように進化してヒトが誕生したか、生物はどのように死ぬか、ヒトはどのように死ぬか、等々について、専門的なことをわかりやすく説明してくれる。今の高校生が生物の授業で習っているような最新の生物学の研究成果(だと思う)がたくさん出てくる。新型コロナウィルスのワクチンにも使われているmRNAのしくみとかも。

 それを踏まえて、”生物はなぜ死ぬのか”という、タイトルにもなっている問いの答えを導き出していく。

 話題は環境問題や少子化問題や教育問題、AIにまで発展する。私は子どもを産んでいないので、ごくたまに生物として失格なのかなという罪に意識にさいなまれることがあるが、こんな私も生物学的に役立ってる部分もあると肯定されたようでちょっと救われる。私は大学時代社会学という学問を学んでいたのだけれど、そんな私が日頃から関心を持っているテーマと生物学がこんなふうにつながっていくのが非常に面白かった。こういうのを”教養”というのだと思う。日本の学校では”文系”とか”理系”とか分けてしまって、入試に必要だとか役に立つかどうかで勉強したりしなかったりすることがよくあるけれど、もっといろんなことを楽しく興味をもって学びたいと思う。

 今、世の中は新型コロナウィルスが猛威を振るっている。これは、増えすぎて自然界のバランスを崩し自然を破壊し続けている人間を減らすための、自然界の仕組みの一つなんじゃないかと私は思っている。ウィルスは自然界において最適な状態を模索しながら、変異を繰り返して進化している。ヒトは科学の力でウィルスを制御しようとしているけれど、ヒトがやっていることが自然の摂理に大きく反しているならば、やがては生物としてのヒト自身が絶滅への道をたどるのは必然ではないだろうか。

 ”多様性”というのはこの本のキーワードの一つだったけれど、ヒトがこの地球上で生き延びていくために、生物的にも社会的にも多様性を認め尊重していくことが絶対に必要なことなのだろうと思った。

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