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「フェイクスピア」

NODA・MAP「フェイクスピア」

 日時:2021717日(土)1300開演

 会場:新歌舞伎座

 

 高橋一生がNODAMAPに出演!?絶対に見たい!!何が何でも見たい!

 とはいえ、このようなご時世で東京まで出かけるのはちょっと…大阪までなら何とか…というわけで、大阪公演のチケットを取る。

 感染者数も増えたり減ったり、緊急事態宣言だの蔓延防止何とかだのも、出たりでなかったり。行けるのか?行っていいのか?いや、もう高橋一生のためなら絶対に行く!と決めた7月の土曜日。

 新幹線には思ったよりもたくさんの人が乗っていた。大阪は、いつもよりも少ないとはいえ、やっぱり福岡よりも人が多かった。

 どこかに寄り道するのも気が引けるし、新大阪駅の構内をうろうろしたりしてみたものの、特に目新しいものがあるわけでもなく、上本町へと向かう。近鉄劇場があった頃はよく来ていた上本町だけれど、何年振りかなぁ。近鉄百貨店をひやかし、新歌舞伎座のあるショッピングモールをひやかし、時間を持て余して劇場へ。ロビーで30分ほどうろうろし、ようやく劇場内へ。

 

 芝居を観る前にできるだけ情報を入れたくなかったのだけれど、1か月以上にわたる東京公演の間に、「すごい」とか「なぜ今30年以上前のこの言葉を…」とか、やっぱりいろいろ入ってきてしまって、何がすごいのか、どんな”ことば”が取り上げられているのか、いろんな先入観があり、かなり期待値高めで観ることになってしまった。

 

 そんなわけで、見た直後はあまり心に響かなかったのだけれど、今頃になってじわじわきている。

 ものすごく情報量が多く、ひとつひとつのせりふ、演出にもすごくたくさんの意味が込められていたことを感じる。

 

 

 タイトルから、フェイク+シェイクスピアを思わせるけれど、それはほんのさわり。橋爪功さんと一生くんが「リア王」「マクベス」「オセロー」を2人芝居。一生くんがもれなく女性を演じるのがとてもいい。

  

 白石加代子さんも交えての3人の芝居が、なんというか、濃密で、とにかく素晴らしかった。いったい何をもって”上手い芝居”と言うのかはわからないけれど、この3人は間違いなく芝居がうまい。

 

 シェイクスピアの四大悲劇のあと一つは「ハムレット」。橋爪さんがハムレット、一生くんが父の亡霊を演じる。あれ?逆じゃなくて?しかし、橋爪さんが「パパ!」と呼びかけると、一瞬で子どもになる。素晴らしい。

 

 「頭上げろ」、そして「永遠プラス”36年前”」というキーワードで、日航機の墜落事故だということに気づく。一生くんがずっと抱えていた匣はボイスレコーダーで、それに気づいてしまったら、行きつく先はあの場面…?そう思ったら、芝居を見るのに結構覚悟が要って、ちょっと構えてしまった。

 私は日頃、あらゆることに平気なふりをして生きているが、実は全く平気じゃないのだと思う。平気なことにしておかないと、一人で日々の生活を送ることができないのでそういうことにしているだけで。東京から大阪に向かったあの飛行機が、群馬県の山中で墜落し、たくさんの人が命を落としたあの事故のニュースを聞いても平気なことにして芝居に向かわないと、たぶんけっこうなダメージを受けちゃうのではないかと思った。それでちょっとこころを閉じて芝居を観てしまった。

 

 けれども、あの緊迫した場面を役者さんたちが舞台上に立ち上げているのをみて、すごいと思った。肉体的にも精神的にもものすごく負担の大きなシーンだと思うのだけれど、いったいどんなメンタルであれを演れるのか。そしてそのあとに何度も何度もカーテンコールに呼ばれて舞台上に登場し、最後には笑顔で客席に手を振る高橋一生というひとは、心底すごいと思った。あのカーテンコールまでも役者として演じているのだろうけれど。

 

 ラストシーン。

 あのボイスレコーダーに残された声の中には、家族に対するメッセージはひとつもなく、ただ、多くの人の命を守るために、最後の最後まで冷静に仕事をこなした父親のプロフェッショナルな生きざまが残されていた。息子はそれを受け取る。あのシーンには父親としての野田さんから子どもたちへのメッセージに思えた。そしてそれは非常に個人的なものに思えた。ちなみに、戯曲は永遠プラス”36年前”ではなく”66年前”になっていた。野田さんは今年で66歳。野田さんも人生の終わりが見えてきて、死を目前にして必死の思いで残した”ことば”を思い出したときに、自分の子どもにどんな”ことば”を残せるだろうかと考えたとき、そこで遭った言葉なのかなと思った。個人的に息子へのメッセージとかじゃなくて、仕事人としての一人の男として残せる力強いことばが、あの芝居の中には確かにあったように思う。

 

 演劇的にもものすごくたくさんの手法が詰め込まれている気がした。

 「白石加代子です」に始まり「白石加代子です」に終わる。

 ブレヒト幕を使った演出は、本当に魔法のようで好き。

 野田さんの作品はいつもそうだけれど、役者がせりふをしゃべって、舞台の上で動いて初めて立ち上がる世界。

 文字だけ読んでも絶対に伝わらない。

 とにかく生で見られて本当に良かった。

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