« 「天保十二年のシェイクスピア」 | トップページ | 「1917 命をかけた伝令」 »

「蛸入道 忘却ノ儀」

庭劇団ペニノ「蛸入道 忘却ノ儀」

 日時:2020229日(土)18時開演

 会場:なみきスクエア大練習室

 

 庭劇団ペニノの名前は聞いたことがあったけれど、東京の劇団だし、どんな芝居をやってるかも知らず、わざわざ観に行くこともなかった。が、福岡に来てくれるなら観に行こう。新型コロナウィルスの影響で次々に公演が中止される中での公演決行。観られてよかった。

 

 会場に入る前に、薄いドーナツ型の白い紙(“お札”)に氏名と願い事を書いて壺に入れるように指示される。

 会場内に入ると、さらに靴を脱いでお寺のお堂のような“建物”の中に入った。“ような”というか、お寺の本堂そのもの。すごい…。中央が小上がりになっていて、お客さんはその周囲をぐるりと囲んで地べたに座るか、もしくは、壁際のベンチに腰掛ける。壁には窓があり、窓からは青い光に包まれて竹などの植え込みが見える。これ、運んできて建て込んだのか…。小上がりの下に置かれた経机のようなものの上には、鈴とかの鳴り物とオレンジ色のファイルが置かれていて、お客さんはひとつずつ取るように指示される。

 

 開演時間になると、作演出のタニノクロウさんから注意事項もろもろ。コロナ対策のこととか、この作品をつくるに至った背景とか、蛸に興味を持ったこととか。お客さんには“蛸色”の服や身につけられる小物を持ってきて提供してもらうことになっていたのだけれど、役者はそれらを身に着けて演じるとのこと(芝居終了後は、どこかに寄付されるらしい)。大太鼓がドンドンと叩かれ(た後に、忘れてました、中央で炭を燃やすので場内熱くなりますという注意事項が付け加えられ)、四つある入り口の一つから役者さんたちが入場し小上がりに上がる(そこが舞台だった)。風呂敷に包まれた“蛸色の服等”を一人づつ受け取り、全部身に着けたところで、開演。

 

 まずは、窓の前に座っているお客さんに窓を閉めてもらう。障子を閉め、扉を閉め、かんぬきをかける。

 舞台上方にモニターがあり、お客さんはモニターに映し出される指示に従って手元にあるオレンジ色のファイルをめくる。最初はほぼ般若心経。それを円になって座る役者さんたちが読み上げる。次に、中央の丸い囲炉裏のようなものを覆う板(11枚にお経が書かれている)を、お客さんに手伝ってもらいながら堂内の壁に下げる。

 以下、囲炉裏に火を入れる、香木を焚いてみる、変なたばこみたいなもので煙を吸ってみる、般若心経にリズムをつけて歌ってみる、楽器を弾いてみる、お客さんが書いたお札を読み上げ、中央のロープにぶら下げる、不動明王真言を絶叫する、酒みたいなものを飲む、踊る(以上、順不同)…と、役者たちのパフォーマンスがどんどん熱く盛り上がっていく。それに合わせて観客も楽器を鳴らし、足を踏み鳴らし、一緒にその世界に没入していく(のが理想)…みたいな感じ。

 

 これは“演劇”なのか?

 役者たちがしゃべるのは8割がた般若心経、なお経と、ほぼ不動明王真言、ぐらい。あとは、楽器を弾いたりちょっとだけ踊りっぽいことをしてみたり。“演劇”の構成要素であるセリフも身体表現もほとんどない。あるのは作りこまれた装置とオレンジ色の本に書かれた“ものがたり”と大音響。燃える炭が発する熱。

 役者がいてお客さんがいて、時間と空間を共有する、ということが目的なのだろうなと思った。

 

 何を“演劇”とするかは難しいところだけれど、パフォーマンスというか、美術のインスタレーションに近いような気がした。閉鎖された空間で、“お経”という怪しい呪文みたいなものが繰り返しガンガン流れる中、自分の着ていた服を着た人が、自分の名前を読み上げている。匂い、熱、音楽、そんなものが充満する中、お客もだんだんトランス状態になる、みたいなところが目的だったのだろうけれど、私自身はずいぶんと冷めた目で見てしまっていけなかった。実際、場内は思ったほど暑くはならなかったし、役者さんの熱も私にはあまり伝わってこなかった。クライマックスで円陣を組んで般若心経っぽいものをガンガン叫んでいる役者さんたちは大変そうだなぁとは思ったけれど。

 

 役者さんたちがお堂を出ていき、お客さんたちが窓を開けて、“演劇”はおしまい。閉鎖された異空間から現実に帰る。残念ながら私は異空間にトリップできなかった。想像力が足りなかったのかもしれない。

|

« 「天保十二年のシェイクスピア」 | トップページ | 「1917 命をかけた伝令」 »

演劇」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 「天保十二年のシェイクスピア」 | トップページ | 「1917 命をかけた伝令」 »