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「1986年:メビウスの輪」

DULL-COLORED POP vol.20  福島三部作 一挙上演

第2部「1986年:メビウスの輪」

 日時:2019年9月1日(日)16:00開演

 会場:in→dependent theatre 2nd

 

 観る前、「1961年が、福島に原発ができることになったきっかけの年で、2011年が原発事故の年で、その間にある1986年という年にどういう意味があるのだろう?」と考えていた。開演直前に大音量で忌野清志郎さんが歌う「サマータイムブルース」が流れた。…思い出した。1986年は、チェルノブイリ原子力発電所で事故が起こった年だ。ちなみに曲が流れている間、舞台上には大きな文字で「お芝居はまだ始まっていません」という文字が映し出されていた。いや、これもう始まってるでしょ!

 

 1986年のある日。穂積家で買われていた犬のモモが死んだ。(以下、ものがたりはモモのナレーションで進む。これは、ビリー・ワイルダーの「わが町」へのオマージュらしい)

 穂積家は次男の忠が跡を継いでいた。忠は小さな酒屋を営みながら、原発反対を訴えて県議に当選したものの、その後3回続けて落選。息子の久はそんな父親のことを嫌っている。

 モモが死んだ日、「もう政治はやらない」と言いつつ、町民大会で原発反対を訴える大演説をぶちかまして上機嫌で帰宅した忠のもとを、社会党政治家の先輩である丸富と、自民党所属町議の秘書・吉岡が訪れる。彼らは忠に「双葉町長に立候補してくれ」と頼み込む。双葉町では、20年以上にわたって町長を務めてきた田中清太郎が不正支出問題で辞職に追い込まれていた。しかし、長く原発反対を訴えてきた忠に勝てる見込みはあるのか。その秘策は…?

 見事町長に当選した忠は、町長室をガラス張りにし、開かれた政治をめざした。ところが、町長になってわかったことは、町の財政は破たん寸前だということだった。原発による大型の工事はほぼ終わっており、交付金の打ち切りも間近に迫っていた。

 そんな時、チェルノブイリの原発事故が起こる。

 

 忠のモデルは、実在の双葉町長・岩本忠夫。ものがたりも忠の言動もほぼ当時の新聞記事等の資料や実の息子さんのインタビューに基づいて構成されている。若いころ、原発反対を訴えて活発に活動していた忠が、町長になり、原発賛成に転向、それどころか新しい原子炉を誘致しようとするまでになったのはなぜなのか?

 

 チェルノブイリの事故を受けて、忠は福島の原発の今後について吉岡に意見を求める。

 吉岡を演じる古河耕史さんがめちゃめちゃ怖かった!眼鏡をはずすと別人のように豹変する。悪魔のように忠を追いかけまわし、原発がいかに必要悪であるかをまくしたてて説き伏せる。あれは吉岡自身なのか。それとも吉岡の姿をした、忠の心の中の幻なのか。途中で、ちょっと論理がねじれているのを感じた。あれ?今勢いで納得させられたような気がしたけど、その理屈おかしいよね?あれは忠自身が心の中で自分の決定を無理やりに正当化しようとしていたのかもしれない。

 

 忠の気持ち、わからないでもないなぁと思わされた。なんの産業もなく、原発に頼り切って発展してきた双葉町。原発のおかげで町民の生活は豊かになり、出稼ぎに行く必要もなくなった。優秀で真面目に働く東電の社員さんは娘の婿として最高だ。町で生まれ育ち、誰よりも町を愛している忠にとって一番大切なのは、町の人たちが幸せに暮らせること。町長になり、町の現状を目の当たりにした時、町民の幸せを一番に考えた時に最良の策は何なのか、と考えた。結局それは、原発を推進することだったのではないかと思う。それは自分の家族の幸せにもつながる。もちろん原子力発電にはたくさん問題があるし、事故が起これば取り返しのつかないことになりかねないとわかっている。けれども、起こるかどうかわからない事故のことや、遠い未来に起こるかもしれない困ったこと(それは将来的には解決されるかもしれない)を心配するよりも、今ここで生活している目の前の町民のことを考えると、今現在に簡単に結果の出る選択をするしかないだろう。

 妻の美弥に歌舞伎のようなメイクを施されながら、狂ったように「原子力発電所は安全です」と繰り返す忠の姿は、おかしくも哀しかった。ああするしかなかった。ああ言いうしかなかった。今更原発反対なんて言ってみたところで、誰も幸せにできない。忠の本当の気持ちはどうだったのか、誰にもわからない。最愛の妻に本心をこぼそうとしたその時にさえ、東電社員の娘婿が何の悪気もなく強引にやってきて、大切な気持ちは言えないままに押し殺される。それでも家族は、家族だけは、わかってくれている、はずだ。

 そして、ものがたりは2011年に続く。

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