« 「春の乱」 | トップページ | 「この星を出る」 »

「らぶゆ」

KAKUTA「らぶゆ」

 日時:2019年6月9日(日)13:00開演

 会場:本多劇場

 

 KAKUTAが2年半ぶりに再始動し、本多劇場で公演。しかも小須田康人さんがご出演!観たい!絶対観たい!

 月曜日が仕事休みで、ちょうど実家に帰らないといけないなぁと思っていたタイミングだったので、すかさず楽日のチケットを予約。前方席でがっつり観劇できた。

 

 ものがたり

 刑務所で一時期共に過ごした男たち。太刀川(小須田康人)、堀内(みのすけ)、尚(中村中)、薮下(若狭勝也)、小向(置田浩紳)。犯した罪は様々だけれど、それぞれに刑期を終えて今は社会復帰している。

 ある日、薮下から一緒に服役していて出所した老人が亡くなったという知らせが入り、彼らは久しぶりに会うことになる。再会した男たちは、薮下が老人の養子となってその遺産を引き継いだこと、そして小向が出所を前に自殺していたことを知る。さらに薮下は、引き継いだ遺産の一部である福島にある土地で、みんなで一緒に暮らさないかと言う。

 ”田舎で、畑を耕しながら、みんなと一緒に暮らしたい”

 それは、小向が服役中に彼らに語っていた夢だった。社会に出たものの、”前科者”としてそれぞれ生きにくさを抱えていた男たちは、それぞれ縁ある人を連れて、福島の田舎の村にやってくる…。

 

 タイトルとかチラシに書かれていた文章から、愛の芝居なんだろうなぁとは思っていたけれど、私の思っていた”らぶ”とは全然違っていた。むしろもっと大きな、壮大な”らぶ”にあふれた芝居だった。

 人間生きていればいいことばかりではなく、うまくいかないことも多くて、罪を犯したりもする。でも、桑原さんは犯罪者にもトランスジェンダーにも薬物中毒者にも平等に愛を降り注ぐ。桑原さんの脚本は、とにかく愛に溢れている。

 

 みのすけさんが、今までナイロンのどの芝居でみたみのすけさんよりもみのすけさんらしかった。この言い方はとても変なのだけれど、とにかくそうとしか言いようがない。みのすけさんて、なんだかあまりにも当たり前にそこにいて、私はナイロンでみのすけさんを意識したことは今まであまりなかったのだけれど、KAKUTAの舞台ではみのすけさんがちゃんといた。なんだかずるくて悪くて調子いいんだけど、悪い人になり切れない感じとか、おばちゃんが気になってつい放っておけなくなっちゃうとことか、おばちゃん(松金よね子)の人柄もあるのだろうし、本人が罪を償おうという気持ちもあるのだろうけれど、結局最後までちゃんとおばちゃんの面倒を見ようとするところとか(これも”らぶ”ですね)、なんかもう一気にみのすけさんが好きになった。

 桑原さん自身は、福島の田舎に嫁に来て離婚して、それでもそのまま福島に残って農業にいそしむマリアという女性をパワフルに演じていてた。女優としても素敵だなぁ。マリアさん自身エキセントリックではあるけれど本当に心優しい人で、小須田さん演じる太刀川やその娘の莉子(吉田沙也美)に惜しみない愛を注いでいた。

 ちなみに吉田沙也美ちゃんは北九州芸術劇場プロデュース公演「彼の地Ⅱ」で女子高生役だった子で、この度上京してKAKUTAに入団したのだとか!

 小須田さんのいろんな表情が観られて嬉しかった。排水管掃除の仕事を終え、スーツに着替えて元嫁にお金を渡しに行くシーン。相手役の元嫁はせりふがなくマイムなのに対して、小須田さんがひとりで芝居をする。ああ、こういうシーン、小須田さんうまいよねぇ…。あと、べろべろに酔っぱらうシーンとか、娘の気持ちなんてぜーんぜんわかってないダメ父親な感じとか、マリアさんにでろでろな感じとか、ぜんぶ素敵な小須田さんで、やっぱり桑原さんの小須田さんらぶがあふれてると思いました。

 小向役の置田さんがとてもいい味を出していた。彼も新劇団員だそうだ。彼はいつも笑顔でみんなのそばにいて、いつまでもみんなの心の中に存在し続ける人。とても笑顔が素敵なのだが、その笑顔の裏に抱えているものは重たい。尚が面会に行ったとき、笑顔で「ここを出るのが怖いんだ」と言った気持ちがなぜだかとてもよく分かった。

 中村中さんがかわいらしい。とにかくかわいらしい。衣装がまた、いろいろで全部かわいらしい。そして、トランスジェンダー扱いされていないのが、素晴らしい。いや、トランスジェンダーなんだけど、芝居の中で男でも女でもなくひとりの人間として描かれていて、性別を全然意識させない感じがして、いいなぁと思った。

 そのほかの役者さんたちもみんなよかった。特に女優さんたちがいい。ガラパを経てKAKUTAに入団した多田香織さんはすっかりKAKUTAの人になっていて、芝居もですが、物販隊長としてグッズのTシャツのイラストからパンフレットの編集まで、さらに終演後は物販コーナーに立ってグッズを売りまくっており、声をかけるのも一苦労だった。異儀田夏葉さんは、あひるなんちゃらにも出られていたことがあると記憶しているけれど(残念ながらあひるではみられなかった)、今回は元教誨師という役柄で、やはり愛に溢れていた。

 しかし、KAKUTAって活動休止してたんですね。北九州で「彼の地Ⅱ」や「荒れ野」などの桑原さんの作品を見ていて、そこに劇団員も出演されてたから、全然気づかなかった。パンフレットの桑原さんのごあいさつを読んで、一時は解散も検討していたということにものすごく驚いた。

 ”続ける”ということは、あたりまえのようでいて並大抵のことではないのだと思う。いくつもの偶然と奇跡が重なって、いま私たちはここにいる。私は客席で見つめ続けることしかできないけれど、こちら側にいることにも何か意味があるんじゃないかと思って、ここに居続けようと思う。

 それが私の”らぶ”。

 

|

« 「春の乱」 | トップページ | 「この星を出る」 »

演劇」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 「春の乱」 | トップページ | 「この星を出る」 »